しずみかけのお日様は悲しいほど綺麗で、
隣を歩く彼の頬は夕焼け色をしている。
こんな風に美しい侭今日も終わっていくのだと思って
泣きそうなほどの幸福を覚えた。


「わ、あ、あれ、」

「え?」


突然彼が立ち止まるので、あたしは数歩先から振り返った。
とまりそうになる息を飲み込む。
彼の視線の先には黒い小さな何かが落ちている。


「蝶々?」

「うん、たぶん」

「もう寒い季節だものね、」


彼はあたしの声に返事をしなかった。
ただ躊躇うことなく、かつていのちと呼ばれたそれのもとへ歩いていく。




きっと生暖かな優しい生命と計り知れない意思を持って生きていたのだ、このあたしと同じに。
鮮やかなブルーの羽は雲ひとつない青空によく似合って、
なのにそれがもう一度はばたくことはきっとない。




彼は大きな優しい手で蝶々を救い上げる。

(そしてあたしはただそれを傍観する。ひどく遠い世界にいるように思えた。)




埋めてやりたいと彼が言ったので、傍の公園に少し急ぎ足でむかう。夜が近づいていた。土のやわらかいところを見つけて、手が真っ黒になるのも構わず土を掘り返す。



どくん、 ・・・あれ、彼の手はなんで

どくん、 こんなに泣きそうなのだろう

どくん、 あたしは、



(消えてしまいたかった)




純粋すぎるやさしさは時に、残酷にひとをころす。


どうしてどうして、
彼はあたしなんかと一緒にいるの。

あたしは彼みたいに優しくなんて

(なれないのに、)



「・・・・・・・・・・・・っ」

「、わ、お前、なんで泣いて」

「・・・・う・・・、ぇ・・」

「ご、めん」

「ちがう、ちがうの、違うんだ」






(やさしく、なりたいよ)



あなたのように世界を愛したいよ
ずっと笑顔でいたいんだ
汚れた部分なんて存在してほしくない



(そんなの無理だって知ってる、解ってるよ)



でも止まらない、止まらないんだ
どうしてあなたは




「優しくなろうとするお前は優しいよ」
「、ちがう、」
「何言ってんだよ、お前は誰よりも優しい」




あと何年、こうしてられるのだろう、
キスして笑える幸せな日々は、あとどれくらい続くのだろう
その間にいくつの命がうまれて、しぬかな。
私の涙を親指で拭った、土だらけの右手。

かなしいくらいやさしい、




「私が死んだら、あなたが埋めてね、その手で埋めてね」





あたしはあなたのいない世界なんて一瞬たりとも望んだりしないのだから






(あなたはやさしいひと)

(ゆえに涙を捨ててしまったひと)

(それなら )



あたしはあなたの代わりに何万回でも泣くの


たとえばあなたが誤魔化すように笑うそのたびに
あの黒い蝶々があなたの夢をそっと横切るそのたびに








(そして今夜、かれは蝶々のユメをみる)





(071025)