彼女は目をつむったまま、黄色い道を歩いていた。
長い睫毛がいつものように、頬の上に影を揺らす。

彼女はどこか苦悩しているように見えて、
それなのになぜか、安らかな表情にも見えて、
僕はどうしても落ち着かない。

向こうから歩いてきた人にぶつかりそうになる。
それでも彼女は目をあけなかった。

「あ・・・ぶない」

とっさに走りよって、彼女の腕を掴んだ。
彼女は声で僕だとわかったのか、ふと緊張を緩めた。

「なに、」
「・・・・・じ、自転車が、とめてあるんだ、ほら君の前に」

とっさに思いついた嘘を言った。
彼女は今度も目をあけようとしなかったけど、
でもたぶん、僕の嘘を見抜いていたんじゃないかと思う。

「・・・彼は、彼はね、ひかりのない世界にいるの」

意志の強そうな大きな瞳を思いうかべる。
この瞼はもう二度と、ひらかれないのだろうか。
あの人は、彼女の愛したあの人は、
彼女をどうしてこんなに悲しませるのだろう。

「もう、彼の眼には、なにもうつらないんだよ、」


彼女の大好きなあの人は、
もう彼女とは見つめ合えない

それは10月の暖かい日のこと

戻らない最愛のひとの感覚を、
同じ感覚を手に入れようと
彼女はただ目を瞑って
埋め込まれたブロックの上を歩いていた



「思い出しちゃだめだよ」

「どうして?」

「おかしくなっちゃうよ」

「そんなの、ならない・・・」

彼女は静かに泣いた。
透明なしずく。

(聞けよ、おれ
今すぐ聞くんだ
おれじゃかわりになれないのって)


見計らったようにがらす色の雨が降り出した。

空は晴れている。

(きみのその崩れそうな心
深い傷、
ゆっくりだけどね、ぜんぶ埋めてあげよう)


だから笑って

笑ってよ。




(070927)