彼が発作と呼んでいるそれは、いつものように突然やってきて
あったかみを食べちゃう虫が這い回ってるみたいに、
あたしの心をぱりぱりにさせた。
「かなしい、なあ。」
あたしはぽつりとつぶやいた。
彼が振り向くことをちょっとだけ期待した。
「え?」
あんのじょう、彼は振り向いて、
かっこよくカットしたかみのけが揺れた。
黒いジーンズから覗く、はだしの足は色が白くて、
きっと誰の足もそうであるように、変な形をしていた。
「悲しいの?」
「うん、かなしい」
「いつもの、発作か」
ホッサという言葉が意味もなく笑えた。
それを伝えると、彼ははちみつみたいに甘く笑った。そうだね、と。
あたしの中の虫は、それすらも、くしゃっと潰して飲み込んでいった。
「あたし、なーんにもできない、バカな人間だ」
「そんなことないよ」
彼の言葉は、やけにうすっぺらく響いた。
それは、彼も気付いていた。
でも、他になんて言ったらいいの?
こっそり、呼吸を止めてみた。
10秒もたったら苦しくなって、
14秒目で、息を吸った。
ばん!
鉄砲の音なんて、声に出したら嘘っぱち。
あたしが呼吸を止めたって、まるで世界は変わらない。
自由なんて、平和なんて、名前だけ。
名前もしらないどこかの国で、
あたしと同じ、にんげんて名前をもらった命は、無力を呪いながらしぬの。
あたしが一生知ることのない病気が、飢えが、はちみつの笑顔をけすの。
いなくなったらもう会えない。
説明しなくたってわかってるのに、
「でも、僕にも君にも、なにもできないよ」
そう、なにもできない。
愛想笑いで精一杯のあたしたちは、第三者として見てるだけ。
宇宙にはいったい、いくつの仕方ないがあるだろう?
ぱちん。
突然はじけたのは、あのいやな虫だったらいい。
「たのしいこと、なにもないね」
「うん」
「生きていたら、なにかあるかな」
「ないかもしれない。僕たちには決められない」
「そう、そうね」
「終わり、見えないね」
「でも、でも好きだよ」
「うん。おれも」
ねえ、いつかあたしが死んだら、あたしの魂はどこかで星になるね。
そしたら遠くに、きっと地球が見えるよ。
ごめんねごめんね、
でもあたしは、心がいつか嘘を付くのを知ってたよ。
だから、呼吸を止めたんだ。
(070831)