「・・・というわけで僕はこれから沖縄に行ってくるけど」

彼は、必要最低限のコンパクトな荷物を抱えて、その場に佇む私にむきなおる。
黒いふちの眼鏡の奥で、真剣な目がこっちを見ている。
そしてその真剣な表情のまま、彼は開口一番にこう言ってのけた。


「ちゃんといい子にしてるんだよ」
「うん」
「知らないおじさんに付いてったらダメだからね」
「う、うん」


ふっと優しく微笑む彼に、私は戸惑いながら相槌をうつ。 
私は小学生ですか。 


「知ってるおじさんでもダメだからね!」
「う、・・・・・・・・う?」


彼は私にビ、と人差し指を突き付ける。

「自分の身は自分で守ること。いいね?」
「・・・」


何がなんだかよくわからないまま、気迫に押されてこくんと頷いた。
彼は指を引っ込めて、ただでさえ無防備なんだからとか呟いた。
それから、目を泳がせて黙る私に、やや大げさに溜息をついてみせる。

「僕が言ったこと、ちゃんと理解したの?」


その言葉にう、と声を詰まらせ、少し悩んで、結局素直に首を振った。

「じ、実はあんまり・・・」
「もー・・・」


彼は不満げな顔でこちらを見て、抱えた荷物をロビーにおろした。
そしてすぐに私に近づいて、その端整な唇を私の唇に寄せた。


「ぎゃ、ちょっと、」


ほっぺたに、眼鏡のレンズが少し当たった。
ちぅ、と吸いつくようなキスをして、彼の唇は離れる。


「変なオトコにこんなことされたら許さないよって言ってんの」
「ば、バカ、こんなとこで」


触れられた唇を指で押さえながら、空港のロビーを真っ赤になりながら見回す。
彼は何の根拠もなく大丈夫だよと言った。
そしていつものように笑う。心臓がぞくりと震える。


「そろそろ行かなきゃ」

その声が寂しそうなのは私の勘違いじゃなければいい。

「早く帰ってきてね」

本当は行かないでって言いたかったけど、
彼はうん、と頷いて、私の頭をくしゃっと撫でてから、私に背を向けて歩き出す。
泣きそうになる。まだ、手をのばせば届く、一歩踏み出せば、


「あ」

不意に、彼は何かを思い出したように声をあげて、くるりと振り向いた。

「これ!」

ポケットから取り出した何かが、彼の手を離れて弧を描く。

「わ、わ、」

受け取りながら少しよろめく。
彼のポケットの中にあって少し温いそれ、
彼の部屋のかぎだった。


「・・・ねえ、これ、」
「預けとくよ。僕の部屋好きに使って」
「でも、」
「わかんないかな、僕の部屋で待っててって言ってるんだよ。君が寂しくないように」


今まで彼が生活してた部屋で、私に暮らせと。
かなり恥ずかしい上に、そっちの方が寂しさが増す気がするんですけど。

「あー・・・・、迷惑だったかな」
「ま、まさか、そんなわけ」
「ねえ、ごめん、さっきの嘘だ」


彼は私を見る。
ゆっくり動きだす唇は、さっき私に触れたもの。



ほんとは
きみのにおいで僕の部屋を
満たしといてほしいだけ だよ。



そんなこと言われて私が平気でいられると思ってるんだろか!
こーなったら私物持ち込みまくってやる。
もういーじゃん一緒に住んじゃえば。



(お土産のゴーヤはほろにがくて幸せをかみしめた味がして、私はつい笑ってしまった)







(070906)
鈴歌さまリク。お題は「でろ甘&社長」
そこまで言うほど甘いのかわかんないけどいいや。